Re: MIT.の電脳遊園地

といっても某工科大学のことじゃないですよ。

ハイパー・グラフィック・ツール LALF (その1)

前のエントリでもちょっと書いたけど、私は徳間書店(正確には徳間書店インターメディア)から発売されたPC-88用グラフィックツール「LALF」の作者の一人だったりします。

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そもそもの始まりは1987年ごろ、友人たちとグラフィック主体のアドベンチャーゲームを作ろう、という話が持ち上がったことでした。ところが当時のグラフィックツールはいまいち不便なものばかり。ならばアドベンチャーゲームのシナリオ作成と並行して「ゲーム開発に使えるグラフィックツールも作ってしまえ」ということに。

私が一番のグラフィックツール使いだったため「ここは外せない」という条件をリストアップして、メインプログラマと相談して仕様を作りました。ポイントは以下の通り。

1.マウス対応
 マウスは普及し始めた頃でまともに対応できたものはなかった。
 (シリアルマウス/バスマウス両対応、縦横比、追従性等)

2.反応速度最優先
 マウスの動きも含めすべての動作が打てば響くような反応
 で使い勝手がいいこと。今で言えばUX重視。

3.ペイントする時、主線が切れててもはみ出ないようにしたい 

4.ブラシで色を塗るとき、輪郭線を保護する機能がほしい

 

1, 2 は「使い勝手」へのこだわり。私はこの頃からずっと、今で言うUI/UXにこだわりがあります。

3, 4は機能的に「セル」と呼んでいましたが、今ではαチャンネルとかレイヤーの概念の実装に他なりませんでした。(ちなみにPhotoshop 1.0の発売は1990年)

その他私はアイコンデザイン、ユーティリティディスク開発をやりました。ユーティリティの画面は、機能の階層をマルチウィンドウ風に見せたかったので、初めてアセンブラで書いたのはいい思い出です。

 

さて元々やろうとしていたアドベンチャーゲームの方はというと、シナリオライターが途中でやる気をなくして抜けてしまい頓挫。逆にグラフィックツールはあまりに出来がよくて、仲間うちで使っているだけではもったいないので、こちらを流通に乗せて販売しようということに。たしか1988年夏ごろ。

そこで次は販売戦略です。

自分たちで会社を起こして独自に流通ルートを開拓すれば儲けは全部自分たちのものでしたがリスクが高いと判断しました。また当時グラフィックツールは雑誌社から発売されるケースも多く、雑誌とタイアップすることでユーザーサポートや販売促進は雑誌側でやってもらえるし、使い方講座などの連載ができればマニュアルで伝えきれないTIPSも公開できるわけです。逆に雑誌社から見れば開発コストはゼロ。商品化にかかる最低限必要なコストだけで発売できる。

ということで、まだそういったツールを出していなかった「月刊テクノポリス」の徳間書店インターメディアに売り込みに行きました。営業&デモ担当は私。

1回目のプレゼン&デモで発売することはほぼ決定。商品化の準備とロイヤリティ契約を詰めたりするために徳間に行くのは私の仕事になりました。

商品化ではスキャナとプリンタ対応、マニュアル制作、パッケージ仕様策定、その他モロモロやりました。

 

発売したら思った通り、動作が速くて輪郭線が消えずに色が塗れるということで大ブレイク。のちに発売される88用のゲームグラフィックはLALFを使って描かれたと思われるものがたくさん出てきました。実際88用グラフィックツールは1000本も売れればヒットと言われた時代に、4000本以上売れました。

私を含め、開発メンバーのポリシーによってプロテクトをかけていなかったこともあり、正規ユーザーだけでなくコピーユーザーはその何倍もいたと思います。それでほぼ88用グラフィックツールを席巻したといっても過言ではありません。あるときテクノポリス誌上で使用ツールの統計をとった時、LALFのシェアは90%を超えていました。(残念ながらその記事の載っていた号を手放してしまいここで掲載できませんが…) 自社販売品だからユーザーが多いのは当たり前とも言えますが、他誌はそのような統計を取リ直して反論(?)することもなかったし、誰に聞いても優劣は明らかだったのです。

それを裏付けるように(?)現在検索して出てくるLALFの記事は概ね好評です。(リンク掲載許可済)

 

◆ドット絵の時代3 ~PC88用ドット絵ツール~
http://ameblo.jp/mugenkai/entry-10678707894.html

 

[]グラフィックツール「LALF」
http://d.hatena.ne.jp/bootstrap/20120419/p1

 

 

こんなところで昔の自分の絵を見つけてしまった… ^^;)

◆ラルフ -ハイパーグラフィックツール-
http://www.8-bits.info/gamelist/PC88/info/info_xgnbnhh7NZzKQtuh.php

 

>ソフトの設計が古いままだった為「LALF」登場後に取って代わられた。

という記述が見られます

◆ダ・ビンチ -スーパーグラフィックツール-
http://www.8-bits.info/gamelist/PC88/info/info_n21XpU9XjMi7XL4U.php

 

 

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蛇足ですがgoogleで検索すると「MUSIC LALF」のほうがたくさん引っかかります。こちらはLALFの後に発売されたミュージックエディターです。LALFが売れたので、徳間が次に出すツールも同じブランドにして出したものですね。PCゲーム・ミュージック界では知らない人のいない古代祐三さんが自作したツールがベースとなっているので、ネームバリューとしては完全におかぶを奪われてます…